他の学校には行けなかった子が、ここには毎日来る。府中校舎・勝又先生のこと

成美学園高等部府中校舎

府中校舎に来ると、生徒が自分から先生に話しかけています。

声をかけるタイミングを計る必要はない。「今、いいですか」と確認する必要もない。昼になると、声をかけられなくても生徒たちが自発的に掃除を始める——そういう空気が、この校舎にはあります。

勝又先生はそれを「成美イズム」と呼んでいます。

この記事では、府中責任者・勝又先生にお話を聞きました。先生が府中校舎に来た理由、キャリア支援への思い、「自分デザインシート」という仕掛けのこと——先生の言葉をそのまま届けます。

勝又先生 府中責任者

東京都教育委員会の学習指導教材作成や都立一貫校設置に携わった経験を持つ。キャリア支援・進路支援を専門とし、府中市での在住・勤務歴は9年以上。2025年4月に府中校舎に着任。成美学園の「音楽を教育として活用する」という考え方に感動して参画した。

「府中校舎に来た理由を教えてください」

勝又先生

成美学園が音楽を教育に取り入れているという話を聞いたとき、ここにしかないものだと思いました。

私は高校1年生まで、今の府中のケヤキゲートのある場所にあったホールでピアノの発表会をしていたんです。音楽が人の感性を開く力を、自分自身が知っていた。だから余計に、ここの考え方に引き寄せられました

(府中市に9年以上住み、働いてきた。その土地で、自分のやりたいことができる場所に出会ったということでもある。)

勝又先生

前職では東京都の教育委員会の仕事にも関わっていました。キャリア支援・進路支援が専門で、都立一貫校の設置にも携わった。でも、今ここでやっていることのほうが、生徒一人ひとりに直接向き合えているという実感があります。この規模だから、できることがある

行政の側から教育を支えることには意義がある。でも、目の前の一人の生徒が今日どんな表情をしているか、それに気づいて声をかけられるのは、この規模の校舎だからこそです

「生徒のどんな変化が印象に残っていますか?」

勝又先生

先週、高3の保護者の方に——まさか大学に行けるとは思っていませんでした、と手をついてお礼を言われました

(しばらく間があった。)

勝又先生

本人が行きたいと言うなら、その進路を実現できるように全力でサポートする、それだけです。学校への通学が難しい時期があっても、大学進学を目指せる。それを証明していきたいと思っています

他にも、ここに来て初めて期末テストを受けることになった生徒がいます。完全に通えなかった子が、今週テストに向かう。そういうことが、じわじわと起きています

勝又先生

私はよく『タイミングと環境』という話をするんですが、今うまくいっていない子というのは、力がないんじゃなくて、合う場所にまだ出会っていないだけなんです。それが、ここに来て少しずつ見えてきた

「毎日来る生徒が増えているそうですね」

勝又先生

今年度に入ってから、毎日来る生徒が増えました。開校から2年ですが、嬉しいことです。他の学校には行けなかった子が、ここには毎日来る——その事実が、一番の答えだと思っています

(フリースクール・高校生合わせて、週1以上登校する生徒が90%を超えている。)

勝又先生

生徒から先生に話しかけるのが当たり前の関係が、ここにはあります。それを積み重ねてきた2年間だったと思っています。

学校って、先生から生徒に声をかけるものだと思われている。でも府中では、生徒のほうから先生に話しかけてくる。それがごく自然に起きています。どちらから始まってもいい——その関係が、生徒の自己決定につながっていくんだと思っています。

この校舎の空気を、一場面で

2026年10月から、府中校舎ではスクーリングが始まります。その準備を進める中で、こんなことがありました。

勝又先生

数学の小次郎先生が来るよ、と生徒に伝えたら、ポケモンの小次郎の話になったんです。『ロケット団で一番頭がいいのはニャースだと思う』という話に発展していって(笑)

勝又先生がそれを話すとき、少し嬉しそうでした。

勝又先生

スクーリングという制度の話をしているはずが、いつの間にかポケモン談義になっている。それが府中の日常です。勉強の話も、進路の話も、ふとした瞬間に別の話に転んでいく。そのぐらい、肩の力が抜けた会話ができる空気があります

掃除のことも話してくれました。

勝又先生

昼の12時になると清掃の時間があるんですが、声をかけなくても生徒が自分で始めるんです。それも、驚くほど丁寧に。細かいところまで気がついて、気がついたら終わっている。先生たちは『魔法か』と思うくらい(笑)

(勝又先生が少し照れながら言った。「当たり前のことを当たり前にやれる子たちなんです」と。)

この光景が、府中校舎の文化を表しています。言われたからやる、ではなく、自分で気づいて動く。それが、この校舎の「成美イズム」として根付いてきた。

「自分デザインシートというものについて、教えてください」

勝又先生

毎朝来たら、自分で今日の目標や過ごし方を書くシートです。『自分への挑戦』か『心地よい過ごし方』か、どちらで今日を過ごすかを自分で選んで、やることを書く

(帰り際には「今日心が動いた時間・頑張ったこと・自分へのメッセージ」を記入する。そのコピーを家に持ち帰り、保護者がハッピーメッセージを書いて翌日返す、という流れになっている。)

勝又先生

ワーキングメモリが狭い子というのがいて、直前のことも忘れてしまうんです。だから、忘れる前に書く。それが支援になる。後で振り返るためじゃなくて、その瞬間に書くことに意味があります。

スマホでもPCでもなく、手書きです。自分の手で書くことに意味があると思っていて

シートは単なるスケジュール表ではありません。生徒の状態を映す鏡でもある、と勝又先生は話します。

勝又先生

文字の大小や書き方に、その日の状態が出るんです。テンションマックスで大きく書いてくる子もいれば、小さい文字でそっと書いてある日もある。それがこちらへのサインになっています。

面と向かっては言えないことが、シートに書かれることもある。「今日はしんどかった」「誰かに話を聞いてほしかった」——そういう言葉が、小さな文字で書かれていることがある。

勝又先生

このシートが、自分を表現する場所になっているんだと思います。言葉にしにくいことも、書くという形なら出てくる。それがわかってから、シートの見方が変わりました。

(保護者との関係も、このシートを通じて変わってきた。)

勝又先生

女子の生徒は、家に帰るとその日の出来事をお母さんに話してくれる。だから保護者の方が自然と校舎の様子を知るようになる。ハッピーメッセージを毎日書き続けるうちに、お母さん自身も変わっていくことがある。

『うちの子は学校に行けないのに』と自己否定していた保護者の方が、毎日のやりとりの中で少しずつほぐれていく。子どもが変わるだけじゃなくて、親子の関係が変わっていく——それが、このシートのもうひとつの効果だと思っています。

勝又先生

“今日の自分”を自分で決めるという習慣が、少しずつ自己決定力につながっていく。毎日の積み重ねがベースになって、進路を選ぶ力になる——そう信じています。

他の人が決めた目標に合わせるのではなく、自分で今日を設計する。それが、この校舎が目指していることです。

「入学を考えている方に、メッセージをお願いします」

勝又先生

今、うまくいっていないことがあっても、それはその子の力がないのではないと思っています。タイミングと環境が合っていないだけで、自分で決めて動き出す力は誰にでもある

(キャリア支援を専門にしてきた先生の言葉は、説明というより確信に近かった。)

勝又先生

まず来てみてください。ここで一緒に、今日をどう過ごすかを考えましょう。

入学後に困らないように、時間をかけて話を聞くつもりでいます。何が苦手で、何が合っていたか——それを把握してからのほうが、ずっと支援しやすくなる。説明会や面談は、合否を決めるための場というより、一緒に考えるための時間だと思ってきてください。

「その子はどういう形が合うかを探し続ける——それが私のスタンスです」と勝又先生は言います。記事で伝えられることには限りがあります。先生と直接話してみてください。